研究|土松グループ

研究|土松グループ

私達の研究室の目標は、「生物にみられる巧みな仕組みや形がどのように進化してきたのか」を明らかにすることです。生物の進化を理解するにあたって重要な手がかりになるのが、ゲノム(全遺伝情報)のデータです。ゲノムは、形質を発現するための生命の設計図であるだけでなく、生命進化の過程のさまざまな痕跡が刻まれています。近年、塩基配列解読技術が飛躍的に発展し、ゲノム配列のデータを得ることはかなり容易になりました。私達は、とくに植物の生殖の仕組みにフォーカスして、自家受精、自家不和合性、花の形などについて、ゲノムのデータを手がかりにその進化の過程を明らかにすることを目指しています。扱う研究材料は、モデル植物シロイヌナズナとその近縁種をはじめ、ペチュニアやミカヅキモなど多岐にわたり、アプローチもゲノムデータ解析から交配実験、フィールド調査までさまざまです。

植物の自己認識機構「自家不和合性」の進化

花を咲かせる植物である被子植物の特徴として、大多数の植物が両性体であり、ひとつの花のなかに雄の器官と雌の器官をもつということが挙げられます。自己の花粉と胚珠による交配(自家受精)を防ぐため、多くの植物は自己の花粉を認識して排除するメカニズム「自家不和合性」をもっています。自家不和合性はいわば免疫のような自己認識システムであり、集団の中に多数の遺伝的な「タイプ」が存在し、タイプ間でのみ交配が可能になっています。このタイプの種類はどのように多様化したのか、そもそもこのようなシステムがどのように起源したのかなど、自家不和合性の進化をアブラナ科とナス科の野生植物を材料に研究しています。

接合藻類におけるゲノム構造と交配様式の進化

接合藻類のヒメミカヅキモは、雄と雌のような「性」をもつことが知られています。ヒメミカヅキモには形態的に区別できない種類の交配型(+型と−型)があり、ふつうはこの交配型間でのみ有性生殖が可能です。しかしながら、いろいろな野生系統を調べてみると、交配型の区別がなく、栄養生殖で増えたクローン間であっても交配できる、いわば自家受精ができる系統も見られることがわかってきました。自家受精をする能力はゲノム配列のどの遺伝子が変化して獲得されたのか、自家受精をするミカヅキモのゲノムにはどのような特徴がみられるのか、などを解明しようとしています。

被子植物の多様な生殖システムの進化

自家不和合性をもつ植物がいる一方で、自家不和合性をもたずに自家受精を行う植物もまた多く存在します。自家受精は、生存力の弱い子孫が生まれるという不利な点がある一方で、1個体でも子供を残せるなど有利な点もあり、植物の中で繰り返し進化してきました。自家受精する植物には、花弁が小さい、花粉の数が少ないなど典型的な花の特徴がいくつもみられます。私達は、進化の過程でどのような遺伝的な変革により自家受精をする植物が進化してきたのか、さまざまな花の特徴はどの遺伝子の変化により起きたのかなどを、交配実験やゲノム解析から解き明かそうとしています。