研究|片山グループ
生物は長い進化の歴史の中で、現在の生物多様性を創り上げてきました。多様であることが強調されがちな生物多様性ですが、実は、生物がもつ系統的制約(ニッチ保守性や発生制約)によって、進化の方向性はある程度決まってしまっています。つまり、多くの場合、生物はその祖先種と似た生態あるいは形態をもつのです。しかし、一部の生物はこの制約を突破し、劇的な進化「跳躍的進化」を遂げることに成功しています。片山グループでは、他の植物とはかけ離れた生態や形態をもつ“変な植物”を研究対象とし、環境・生態・発生・DNA情報を階層縦断的に解析し統合することで、劇的な進化を可能にする「制約突破要因」を明らかにし、大進化をもたらす原動力を解明しようと考えています。
突然変異率の上昇と進化可能性
突然変異は遺伝的変異を生み出す根源であり、その速度上昇は生物の進化可能性を高める一因となります。これまで、カワゴケソウ科やサトイモ科ウキクサ亜科などの一部の水生植物では、顕著な突然変異率の上昇が報告されており、突然変異率の上昇がそれらの植物の劇的な進化の背景にある可能性があります。そこで、水生植物における突然変異率の上昇と進化・多様化の関連性について解明すべく、被子植物における分子進化速度の上昇と生態学的特性との関連の解明と、ウキクサ類を用いた酸化ストレスによる突然変異率上昇の実験的検証を行なっています。
水生化に伴う根の喪失がもたらした発生制約の緩和
被子植物では、植物体の両極にある茎頂分裂組織(SAM)と根端分裂組織(RM)が未分化な状態を維持しながら無限成長を行ない、地上部にシュート系、地下部に根系をもつボディプランが形成されます。この鉛直軸ボディプランは、地上で光合成を行ないながら光を求めて成長する植物にとって適応的であり、被子植物において広く保存されています。双子葉植物カワゴケソウ科とタヌキモ科は、どちらも科内で段階的にSAMとRMを喪失しており、興味深いことに、どちらの科内でもRMを喪失した後に、より派生的なグループで、SAMの発生変更とシュート系の多様化が起きています。そこで、我々は、RMの喪失によって発生のタガが外れ、SAMの発生制約が緩和し、跳躍的進化に繋がったと考え、植物の劇的な多様化をもたらした要因の探索を行っています。